僕の犯した罪と✕
僕の犯した罪と✕



『あなたの事、もっと知りたい』って?


僕のことを知って、
君はなにをするつもり?


…愛しているから?


そうなんだ、
うん、僕も愛しているよ。


でもなぁ、僕のことって、
あまり話せることがないんだよね。


君も知っている通り、
僕は、なんでもできるし、
なんだって持っているから。


完璧人間ってやつだから、君が
知っていることが多分 僕のすべてだよ。


それより…なんだかいつもより君の声が
上ずって聞こえるんだけど、
気のせいかな?


――え、なに?


そんなことはどうでも良いから。


あなたの恋は、知らない?


…うーん、多分ね、
それも君の想像する通りだよ。



僕の恋は、いつでも上手く
いっていたっていうこと。


…うん?


付き合った人数?


正直に言っていいのかな?


…良い。


解った。


僕は君の前にだいたい十人くらいと
付き合ったことがあるし、
重なったこともあるよ。


恋多き男だった…っていうと、
気持ち悪い?


でも、その通りなんだよね。


告白しなくとも、
僕が好きになった人は絶対に
僕に告白してくれた。


もちろん、君もね。


…だけど、僕の恋は熱しやすく
そのくせ冷めやすくて、
本気の恋はしたことがなかった。


でも、一度だけ
本気の恋をしたことがあった――。


…あ、心配しないでも大丈夫だよ。


君とは別れないし、僕も君が好き。


この恋も、僕にとっては本気だから。


…うん。


もっと話を聞きたい?


…うーん、別に良いけどさ…
これから話すのは全部実話だし、
ある意味かなり醜いと思う。


それでも、良いの?


…解った。


じゃあ、順を追って話すね。


僕は高校生の時、恋い焦がれるほどの、
いつでも相手を想うほどの恋を、
一度したことがあるんだ。


相手の子の名前?


…さぁ、忘れちゃったな。


…うん、で、一目惚れだった。


…うーん、なんだか
電話口から男の声がしたような…
気のせい?


…オッケー、解った。


…で、僕はその人を
忘れる時は片時もなかった。


そして、こうも考えていた。


僕が好きになった人なんだから、
相手から告白してくれるだろう、って。


でも、そうはいかなかった。


彼女は、まるで僕の生き写しのような
完璧人間と付き合っていると
噂に聞いたんだ。


必死にアピールしたんだけど、全く
振り向いてくれないし、
素っ気ない態度を取られたから、
疑問に思っていたんだ。


でも僕は、
その噂を信じることはできなかった。


どうして完璧で、
容姿端麗な僕を選ばないんだろう、って
ずっと思ってた。


でも、所詮は自惚れだ。


僕は見てしまったんだ。


…彼女と、その隣に寄り添って歩く、
僕ほどの容姿端麗な、それでいて
優しそうな男。


…僕は胸が張り裂けそうになって、
慌ててその場から離れたよ。


そして家に帰って、ずっと泣いた。


なんで、なんで、なんで、ってね。


本当、今から思うとアホらしい。


…つまらなくない?


僕の話、
まだまだ先があるんだけど…。


大丈夫?


じゃあ、続けるね。


僕は彼女を諦めきれなくて…人生で
初めて、自分から告白をしたんだ。


…今までを思い返してみても、
告白されるばかりで、自分から思いを
伝えたことは一度もなかったんだ。


「…君が、好きです」


放課後の誰もいない教室に、
鍵をかけて、僕は確かにそう言った。


…彼女の答えは、こうだった。


「ごめん。
 私は彼が大好きだから」って。


“僕の好き”を彼女は“彼が大好き”って
返したんだ。


…うん、あれはかなり傷ついて、さ。


…そのあとで、本当に僕は、
馬鹿なことをした。


…後悔してる。


なんであんなことをしたんだろう、
ってね。


それよりさ、君、今どこに居るの?


君のところに向かっている
途中なんだけど…。


え、来なくて良いって?


いや…まあ、
僕が君と会いたいからね。


行くね。



でね、僕は、こう言ったんだ。


あまりの悔しさと、失恋した悲しみと、
フられたっていう事実で、
僕は、混乱していた。


「なら、せめて…一度だけでも」


彼女は首を縦には振らなかった。


当たり前だよね、
恋人でもない男に抱かれるなんて、
どうかしてる。


そんなことをすると、
相手の彼氏を裏切る行為に
なるっていうのにね。


…閑話休題。


僕は、せめて、キス、だけでも。


そう言った。


…あの時の胸の痛みは、
今でも鮮明に覚えているんだ。


今まで完璧で、
なにも失敗したことがなくて、
恋愛だってすべて上手くいっていた。


泣きそうになったんだ。


…彼女は、フられた恋に必死で
すがりつく僕を哀れに思ったのか、
一度だけね、と念を押して――


キスを、してくれた。


まだ、あの感触は唇に残っている。


どこまでも柔らかくて、
どこまでも甘くて、
どこまでも優しくて、
どこまでも――愚かな、キスを。


気づけば僕は、
彼女を押し倒していた。


教室の、ふわりと埃の積もった
床の上に。


彼女も抗わなかった。


僕らはもう一度、
さっきよりも濃密なキスをして、
それから――あぁ、ごめん。


つい、感情的になってあの時のことを
包み隠さず言うところだった。


大丈夫、今は君だけ。


…あの時は、
どんな時よりも気持ちが良かった。


僕らは、身体を重ねてから、
ゆっくりと立ち上がって、
一言も言葉を交わさず、
正反対の廊下の道を歩いていった。


彼女のそれから?


知らないなぁ。


あれ以来一度も話をしていないし、
会ってもいないから。


元気に暮らしてると思うよ?


…これが、僕の恋。


初めて人に言ったよ。


どう?


君は――こんな僕の犯した罪を、
許してくれる?


「…もし私が同じことをしたら」
だって?


…んー、僕はきっと、君を
許さないと思う。


身勝手かもしれないね、
自分は良くて相手はダメだなんて。


でも…僕のプライドを傷つけることは
絶対に許さない。


どうしてそんなことを聞いたの?


もしかして、
そんな経験が…あるとか…?


…うそうそ、冗談。


許さないことには変わりないけどさ、
君がそんなことするはずないもんね。


うん、例え今、
君がラブホテルに居たとしても…。


え、なんで私の居場所を
知ってるかって?


アハハ、僕は完璧だって
言ってるだろう?


いつも君が首に下げている
ネックレスにはね、居場所発信器――
GPSが埋め込まれているんだよ。


君がもしも誘拐されたり、他の男に
良いようにされるのは嫌だから。


さぁ、今は君の部屋の前にいるよ。


2099号室だよね?


ドアを開けるよ?


さっき男の声がしたって言ったけど、
もしかして…いや、そんな訳ないよね。


何度もいうけど、完璧な僕の誇りに
泥を塗るようなことがあれば、
絶対に許さない。


すぐに別れてもらうね。


「いや」だって?


アハハ、なに言ってんの。


君はそんなことしてないだろうから、
別れる必要なんてないじゃないか。


じゃあ、切るね。


部屋に入ったら、
真っ先に君を抱き締めるからね。


愛してる。


本当に。


じゃあ、三秒後にね――。










ーENDー

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