不器用なシンデレラ
「お袋から花音が引越したって聞いた時、俺がどんな気持ちだったかわかる?アメリカにいて、すぐにお前のとこに戻れなくて生きた心地しなかったんだけど。だから仕事早く終わらせて、本田さんに無理言って1日早く帰国した」

「ごめんなさい。でも・・・」

「言い訳はもういい。花音も家出なきゃいけなくて辛かったよな。俺も雅代さんのいるあの家、好きだったよ」

 理人くんが私の頭の上にポンと手を置く。

 その表情は少し柔らかくなり、私を見る目も優しくなった。

 だから、理人くんもおばあちゃんの家を好きだったって言ってくれたのが嬉しくて目頭が熱くなる。

 そして、涙が頬をつたると、理人くんはまた私の涙をペロリと舐めた。

「泣き虫。でも、その泣き顔他の男には絶対に見せるなよ」

「え?」

「可愛すぎて理性が吹っ飛ぶ」

 そう呟いて理人くんは私にそっとキスをした。

 少し唇が触れるだけのキス。
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