不器用なシンデレラ
 静かに私を下ろすと、彼はスーツのジャケットを脱いで私の口にあてがった。

 理人くんも私の様子を見てトイレまでは持たないと察したのだろう。

 私の背中を撫でながら彼は言った。

「もう我慢しなくていい。吐いて」

 遠慮している余裕はなかった。

 恥ずかしいと思う余裕さえなかった。

 もう限界だった私は、気持ちが悪くて理人くんのスーツに構わず吐いた。

「うっ・・・」 

 辛い。

 冷や汗が出て私の身体はぐっしょり濡れていた。

 でも、吐いたら少し楽になってきた。

 こんな姿を見られるなんて最悪だ。

 しかも、理人くんのスーツ駄目にしちゃった。

 これじゃあクリーニングにも出せない。

 どこまで馬鹿なんだ私。

「・・・ごめんなさい」

 ぐったりしながら謝ると、理人くんはただ私の頭の上に手を置いた。
< 17 / 358 >

この作品をシェア

pagetop