木曜日の貴公子と幸せなウソ


残っていた牛丼はもうすっかり冷めていた。

それでも最後まできちんと食べた。

今度、夏江を誘って来てみよう。

それよりも先に、有坂先生が夏江と来ることになるかもしれないけれど。




「すみません、ごちそうさまでした」

「いやいや、こちらこそ。相談にのってくれてありがとう」


駅の改札口。

多くの人が行き交う中、お互いに頭を下げ合っていた。


「それじゃ、例の件よろしくお願いしますね」

「もちろんです。……その代わり、有坂先生も私のあの件は……」


私が言うと、有坂先生は肩をすくめた。


「言ったでしょ?あれは脅迫材料にならないんだよ」

「……はい?」

「萌先生、明日頑張って」


そう言うと、長身の彼は改札口へと吸い込まれるように消えていく。



明日頑張って……。


そう言われても、果たして頑張れるのか、微妙です。


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