木曜日の貴公子と幸せなウソ


「今日は何して遊んだんだ?」

「折り紙。お姉さんが教えてくれたの」


必ずしもお母さんが迎えに来るとは限らない。

お父さんが来たり、おじいちゃんやおばあちゃんが来たり。

園児の名前が入った保護者証を首からさげているから、誰の保護者かわかりやすい。

今も、預かり保育の部屋から引き取って帰る親子が一組。


「あ、萌先生。さようなら!」

「さようなら、エミちゃん。気を付けてね」


顔を見たら年少組の女の子だった。

エミちゃんは、折り紙を片手に私に笑顔で手を振ってくれる。


「……萌?」


エミちゃんの隣にいたお父さんが小さく私の名を口にした。

エミちゃんから視線をずらして、私はお父さんに向かって頭を下げる。


「え、二宮萌?あの二宮萌?」

「……はい?」


頭を上げると、エミちゃんのお父さんは私の名札を見て、そう言った。

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