アルマクと幻夜の月
「あぁ、そうだな。帰るか」
そう言ったはいいが、アスラはその場を動こうとしなかった。
――否、動けなかった。
「……おまえ、ひょっとして帰る道がわからなかったり?」
固まったアスラの顔を覗き込んで、シンヤが言う。
「……う」
図星だ。
シンヤを追って走り回ったせいで、自分が今どこにいるのか、どう行けば宿に戻れるのか、皆目見当もつかない。
イフリートが、仕方ない、というふうにため息をついて歩き出そうとした。
人目につかないところで鳥になって宿を探しに行くつもりだろう。
だが。
「イフリート、待て」
衣の裾をつかんで、アスラはそれを止めた。
どういうつもりだ、と言いたげな目で見下ろしてくるイフリートにかまわず、アスラは財布から硬貨を一枚取り出す。