アルマクと幻夜の月



十ヤール硬貨。

これだけあれば、ホブス(薄いパン)が四つは買える。


「シンヤ、この辺詳しいんだろ? 案内してくれ」


にかっと笑って、アスラは硬貨をシンヤの手に握らせる。

シンヤはきょとんとした顔でアスラと手の中の小銭を見比べ、「でも、」と呟いた。


「どうした? おまえも道、わからないのか?」


アスラの言葉にぶんぶんと首を振ったシンヤは、泣きそうな顔をしていた。


「わかるけど、わかるけどさ、いいのかよ。たかが案内料で、こんな……」


「さあな。なにしろ、あたしはいいところの嬢ちゃんだから、そのあたりの相場はよく知らない。いらないなら返してもらうけど?」


そう言ってアスラが手を伸ばすと、シンヤは慌てて手の中に小銭をしっかりと握り込んで、アスラの手から逃げるように身をよじった。

< 165 / 282 >

この作品をシェア

pagetop