アルマクと幻夜の月



少年たちは見えない壁を思いきり叩いてみたり、体当たりをしたりするが、アスラに触れることはどうしてもできない。

何度繰り返しても結果は同じだ。


もはや少年たちに打つ手はなかった。

数人の少年が、当惑した顔でハイサムを振り返った。


それまで静観していたハイサムが難しい顔で近寄り、おもむろに右腕を持ち上げる。

そしてその手を、思い切りアスラを叩く勢いで振り下ろした。


だが、やはりと言うべきか、その手もアスラに触れることなく宙で止まった。


「あんた、魔術でも使えんのか?」


無表情に言ったハイサムに、「神の加護さ。日頃の行いが良いからね」と、アスラは冗談めかして答える。


「反則ではないだろ? ルールは『あたしを捕まえる』ってだけだ。おまえたちはどんな手を使ってもいいし、あたしもどんな手を使ってもかまわない。そうだろ?」


もう負けを認めてくれてもいいんだぞ、と、アスラは言う。

そんなアスラをシンヤは睨みつけると。


「おい、シンヤ。おまえちょっとこっちに来い」


突然、蔵の隅にいるシンヤを呼んだ。



< 197 / 282 >

この作品をシェア

pagetop