アルマクと幻夜の月
「なら明日、領主のところへ行くのをあたしに代わってくれないか?」
「はぁ? 嫌よ、こっちだって商売かかって……」
「報酬として、領主にもらうはずだった分の金に三割を上乗せして渡そう」
女の言葉を遮って、アスラが言った。
そして女がなにか言う前に、「でも、」と続ける。
「あんたにとって領主は大事な顧客。来るはずだったあなたが来なくて、代わりに行ったあたしが色々としでかしたら、あんたも仲間だと思われる。そうすればあんたは商売あがったりどころか、下手すれば処刑」
「……よくわかってるじゃない」
「だから、あんたは明日、領主のところへ行くのをあたしに譲って、代わりに役人のところへ行け。そしてこう言うんだ。――領主の館に怪しい集団が入っていくのを見た、と」
アスラの言葉に、女は口をぽかんと開けたまま何も言えなくなってしまった。
「聞いてるか?」と、アスラが目の前で手を振ると、ようやく「なにそれ……」と一言発する。