アルマクと幻夜の月




「言えない理由は?」



「言えない」



あくまで話そうとしないキアンに、アスラは顔をしかめた。



「……なら、答えは変わらない。ベネトナシュには行かない」



言いながら、アスラはキアンに背を向けた。


相変わらずの無表情でイフリートがそれを追い、その後ろにおずおずとシンヤもついて行く。



「どうしてもあたしが欲しいなら、事情を話す程度の誠意はぶらさげて来な。

――あぁそれから、おまえもしばらくはこの宿に留まるんだろうが、あたしを姫と呼ぶなよ。いいな」



それだけ言って、アスラは扉を開けて外へ出て行った。


スタスタと歩いていく怒ったような背中を、シンヤがイフリートを追い越し、小走りで追いかける。


その後から部屋を出ていき、後手に扉を閉めようとしたイフリートは、ふいに立ち止まって振り返った。



その目がキアンを見て、次いでリッカを見る。


数度瞬きする間、視線がぶつかりあって、やがて目をそらしたのはイフリートだった。



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