アルマクと幻夜の月
「お気持ちはわかりますが、『スルターナ様』とお呼びください。いつ誰が聞いているのかわからないのですよ?」


「べつに、聞かれたってかまわないさ」


「いけません!

仮にも国王様の正妃様を呼び捨てにし、そればかりか年増呼ばわりしたなど誰かに知られれば、

アスラ姫とナズリ様のお立場がいっそう悪くなってしまいます。

姫ご自身だけならともかく、これ以上病床のお母上様を苦しめたくはありませんでしょう?」


強い口調で言われて、アスラは不満そうな顔をしながらも「わかったわかった」と頷いた。


それを聞くと、ルトは安心したように笑う。

年の割りに大人びたルトだが、笑うととたんに年相応の顔になる。


だからアスラは、ルトの笑顔が好きだ。
< 5 / 282 >

この作品をシェア

pagetop