アルマクと幻夜の月


(帰りたくない、とは思ったけど……)


イフリートはどうしてわかったのだろう、と不思議に思いながらも、アスラは夜風を切る心地よさに目を細めた。


地上を見下ろすと、暗闇の中にぽつぽつと灯りが見える。王都には街道に所々篝火が焚いていて、空から見ると星の海のようだ。


夏とはいえ、アルマクの夜は冷える。だが、冷たい夜の空気も、今のアスラには自由の証だ。


「なあ、イフリート」


星の海の光を映して輝く瞳を、アスラはイフリートに向けた。


「ありがとうな」


少女にしてはすこし低く、どこか少年じみた声が、夏の夜空にそっと溶ける。



< 62 / 282 >

この作品をシェア

pagetop