アルマクと幻夜の月
すこし笑って言ったアスラの表情は、さっきまでのそれと変わらない。

――だが、その声音は、注意して聞かないとわからないほどではあったが、わずかに沈んでいた。


(……めんどくさいお姫様だな)


イフリートは小さく嘆息し、大きく空気を蹴った。


黒馬が勢いよく夜空を駆ける。――その目指す方向は王宮とは逆だ。


「……ちょっ、イフリート!? 王宮はそっちじゃ……」


「当然わかっている、それくらい」


驚いて声を上げたアスラを、イフリートは不機嫌そうな声音で言って黙らせる。

そして、「……まあ、なんだ」とすこし言い淀んで、


「せっかく、滅多に出られない王宮の外へ出たんだ。……少しだけなら空の旅に付き合ってやってもいいか、と思ってな」


静かな声で、そう言った。


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