僕を止めてください 【小説】
ソファに座る僕は、よくわからないまま、隣りに座った彼のしゃべるのを聞いていた。彼の手は、また僕の背中に回され、その手は僕の皮膚を服の上から撫でていた。これは癖なのかな? と僕は想像した。
「こんなに早く、僕の家に来てくれるなんて思わなかった…ありがとう、君のことずっと見てたんだ。きれいだよ…雰囲気も、身体も、声も、とてもいい…メガネが似合うね…それも好きだな」
変な趣味だ。僕のことを気に入るなんて。僕は写真集の続きを想像しながら、その声を聞いていた。だが、どんなことを言っているのかあまり興味がなかった。
「なにか飲むものを持ってこようか」
そう言うと、彼は僕の背後に回った。キッチンに行くのかと思った。しかし、彼は静かに僕の後ろに立った。その時いきなり僕の首に、背後から彼の腕が回された。そして、急にその腕が僕の首を絞めつけた。気管は潰れないので苦しくはなかったが、いきなりの行為に僕は驚いて、彼の腕に自分の指を掛けた。しかしそれはいわゆる“スリーパーホールド”と呼ばれる絞め技の一種で、左右の頸動脈だけを腕で圧迫して、それがキレイに決まれば約7秒で、後遺症なく脳酸欠で失神する。
それはとても見事なスリーパーホールドだった。僕は教科書通り、10秒経たないうちに気を失った。