僕を止めてください 【小説】
「この本、貸してあげる…君、気に入ったでしょ?」
なぜか僕の耳元で彼は囁いた。僕は黙って頷いた。
「僕も君が…気に入ってしまった…」
彼はそんなことを言って僕の背中に手を当てた。気に入ったから貸してくれるのか、と僕はそのまま受け取った。指が背骨をなぞるのがわかった。なにしてるのか、よくわからない。椎骨を数えてるのかな? そんなことを考えながら、僕は写真に釘付けになっていた。彼のことなどどうでも良かった。この本を貸してくれることだけが、重要だった。
「貸してあげる代わりに、僕のお願いを聞いてくれる?」
更に耳元に近づいて、まるで耳に口をつけるように彼はまた囁いた。そんな事しなくても聞こえるのに、と僕は不思議に思った。僕は画像を見つめたまま答えた。
「なんでしょうか?」
「いまから僕のうちに来てよ」
行ってどうするのかとかすかに思いながら、僕は写真集をめくりながら、ええ、と言って頷いた。
「いいの? ありがとう! 嬉しいなぁ。じゃあ、シートベルトしてね。車出すからさ」
「はい」
車は静かに滑りだした。その20分後に僕は彼のマンションのリビングに居た。