僕を止めてください 【小説】



「究極の草食動物だっつーの。上の歯が退化してんだよ? 草しか噛めないっていうの」
「いえ、勃起は大事です」
「当たり前だろ。てか、アルパカ無視かよ。会話してよ」
「いえ、ビジュアルの記憶がリャマと被ってて…リャマは生贄で胎児をミイラにしたりするんで僕はそっちのほうが親近感が…」
「あのな、リャマは草食系でもめちゃくちゃ獰猛なんだぞ! 喧嘩で相手の睾丸引き裂くんだよ。血みどろの戦いだよ? リャマ却下。いやむしろリャマくらいやれっての…で?」

 いきなり寺岡さんは本題に入った。

「言ったの? 君の考えをさ」
「いえ…まだ言ってません。さすがに言えなくて」
「まぁそうだろ。無理もない。そんなこと言ったら今度は本気で首くくる。折角良くなったのに」
「ですよね」
「ああ。小島君は今後どうしたいとか言ったの?」
「いえ…抱き合ってキスして…謝られました。ごめんって」
「なにを謝られたの?」
「僕の病気のことを。でもやったのは松田さんで、小島さんはむしろある時期からやめてくれたんで謝る必要ないんですが」
「でも絞めたんだよ。君の心臓が止まるまで。心中だったとしても無理心中だからさ。彼はやっぱり事実犯罪者だからね。君が訴えないだけで。まぁ、ウツの診断が出てるから心神喪失で起訴はされないけど。ああ…小島君ならむしろ君の病気の責任取るくらい言いかねないけどね。でも責任取るってどう取るんだ? 治療費全額払うとか? 傷物にしたから嫁にするとか?」

 寺岡さんはため息をついた。





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