僕を止めてください 【小説】



「勝手に僕を疑って追い詰めてあんなにして、犯して、今度は自分の性欲を僕に処理させるんですよね? 他にどんな言い方があるんです?」
「それとこれとは別だ…君って雰囲気に似合わずひでぇ性生活してんのな。なんでそんなことに慣れてるんだ」
「あなたには言いたくありません。ほじくらないでくれます? 僕…も…もう容疑者じゃないんで…う…」

 言い合っている合間にもしつこく唇と舌で首筋を愛撫されているうちに、なんだか変な気分になっていた。

「君は…首が弱いんだな。ここ嬲ると確実に感じてよがるもんな」

 首が弱い…あ、そうだ…注意事項がもうひとつ有ったことを僕は久しぶりに思い出した。

「首、気を付けて下さいね。僕、いろんな人に頸動脈絞められて落とされて犯されてるうちに、中3の時から頸動脈洞過敏症っていう病気になってて」
「え…なにそれ?」
「頸動脈洞のあたり触ると、軽い刺激で落ちることがあるんで…失神しますから…ヘタすると死ぬそうなんで。僕はいつ死んでもいいですが、幸村さん今僕から注意を受けた以上過失致死になりますよ。職場の人は知ってますからね」
「…わかった…君…ほんとにひどい目に遭ってるな」
「貴方にもね。でも死ねなかったことのほうが…残酷だ…」

 ひとのことをよく知りもしないで簡単にそんなことを言われるのはとても心外だった。

「君は死にたいって思ったことあるのか」
「こんな身体になってからずっと…今でも思ってますよ…死ねないですけどね、いろいろ縛りがありまして」
「死なれちゃ困る」
「貴方もですか…勝手なこと言ってくれるな。大丈夫ですよ。死ねません。でも首は…」
「頸動脈洞か…覚えとく」
「ええ…わかってんなら触らないでくださいね」
「ああ、そこは避ける」

 自衛官もだが、警察官も武術を会得しなければならない都合上、そこを絞めて落とすやり方は熟知している。犯人確保の時にやむを得ずそうしなければならないこともある。幸村さんがそのことの飲み込みが早いのはそう言う理由だった。










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