僕を止めてください 【小説】
例えば、犯罪を犯すことは社会生活上、不利益を大いに生むので、大抵の場合避けられるが、それでも非合理的な犯罪という手段でその隠された自己はそれ自身の目的を果たそうとする場合がある。そこには隠された人格の深い破滅願望や自己否定、社会への復讐や歪んだ自己顕示欲などの、ただの現実的な金銭や地位などの、生存にかかる執着とは違った、潜在意識下の利益が裏で糸を引いている場合が多いと言われる。
アメリカの警察機関が犯人を特定するプロファイリングの方法論とは違うアプローチであると、授業を担当している講師は言っていた気がした。どちらかというと犯人逮捕のあとの動機の追求や、服役中の更生プログラムに使うなどという記憶があった。
少なくとも、死神であり続けることに何らかの隠された利益があるのではないか、という観点は、今までの考察では発想になかった視点だった。とは言うものの、その利益がすぐに思い当たるものでもなく(すぐ発見できたら“隠されてる”などと言わない)、隠しているということは隠蔽すべき何らかの理由もあるだろう。
残念ながら直ぐには思い当たらなかった。しかし僕はどこかで本当の理由を知っているような気がした…深い深いところで。それに気づきたくないから、重りを付け、深く心の底に沈めて忘れてさえいるような…
“Skeleton in the closet”
『クローゼットの中の骸骨』という言い回しが英国にはある。見せられないような隠し事のこと。いやむしろ僕の場合、骸骨なら好感度は高い。それより、死んでいるはずの屍体がまだ動く、とかの方に僕は忌まわしさを感じた。
(つまり…ゾンビとか)
それをイメージすると、僕にとっての隠された利益は『クローゼットの中の骸骨』ではなく『地下室に閉じ込めたゾンビ』がしっくり来るように思った。死人はちゃんと死んで頂かないと…そのためには可哀想な監禁ゾンビを探し出し、頭を撃ち抜いて静けさを取り戻してあげなければ。さてどうやって探そうか。取り敢えず今日はもう遅い…寝よう。
期せずして僕にひとつミッションが増えた。ベッドの中でも考えてみたが、疲れていたので、いつの間にか眠ってしまっていた。