僕を止めてください 【小説】




 1年ぶりの博物館の階段を僕は上っていた。小島さんは初めて来たという。

「こっちです」

 特別展示室は館の2階にある。どこに行けばなにがあるか、僕にはだいたいわかった。

「詳しいな。よく来るの?」
「ええ、まぁまぁ」
「へぇ…お前ぽいな」
「母が僕は化石とか恐竜とかが好きだって誤解してたんです。化石は好きですけど」
「それ、死んでるから好きなんだろ?」
「はい、化石が好きなので、恐竜の模型とか、全く興味なくて。でも母親は恐竜好きなんだって思って、ソフビのティラノザウルス買ってきたりするんです」
「お母さんに同情するなぁ…俺」
「で、小3の夏休みの理科の宿題で、母がここに連れてきてくれて。恐竜展やってたんです。僕はその時の展示の目玉の翼竜の全身標本に参っちゃって。ケツァルコアトルスの復元模型ではなくて、門外不出と言われた本物が来たんです。ゾクゾクしちゃった」
「それ以来?」
「ええ、それ以来。常設展の昆虫の標本とか、哺乳類の剥製とか、展示の数が多くて、回りきるのに何回も来ましたよ。向かいの国立博物館にはミイラがあるんで、そちらも行きますけどね」
「お母さんには自然科学好きの我が息子なんだろうな」
「そうですね。この前まで確実にそう思ってたと思います」

 この前、ついに堂々と“生きてるものに興味ない”って言っちゃったしな…と僕はちょっと後悔した。







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