僕を止めてください 【小説】
「こんなことが起きてたんだ。こんなのある? ほんと、君の人生は連載マンガだよね……エロで猟奇でミステリーでさぁ。ドハマりだよ、未だに性癖にぶっ刺さって抜けてないもん」
「前にも言われましたよね、それ」
「言ったっけ? でさ、出来れば清水さんと話したいんだけど」
「それは僕も思ってました。寺岡さんが良いならぜひ」

 寺岡さんからその提案が出て、僕は心底安堵した。小さい裕の言うとおり、物見高く退屈な寺岡さんに期待していて良かったということになる。寺岡さんが清水センセを受け入れるかどうかは会ってからのことになるけど。

「ああ、そうなの。本人はどうよ?」
「ええ、遠慮してはいましたが、迷惑にならないなら話してみたいって言ってました。それ以上にあの人の不安定さが僕は怖くて。精神薬も飲んでて。壊れてるところがわかるだけに、僕のせいでまた追い詰めるんじゃないかって。でももう、僕の存在が人生のすべてだってくらいに溺愛してて僕に依存してるんですよ。僕は共依存だと思ってます。でもそれが正しいのか当事者の僕にはわかりませんし。だから僕と小島さんに処方を出してくれたみたいに、寺岡さんに僕と彼の関係を分析して欲しいっていうのもあります。なんかお願いばっかりで申し訳ないんですが」
「いや、これは君自身の不安定さの問題でもあるでしょ? だって発作が治まってるのその清水さんの本気の殺意のおかげなんだから。二人してこんな捨て身で生きてるの、居た堪れないよ。頼んでくれて良かったよ。介入できるじゃない」
「良かった……自分からは到底話せると思ってなかったんですが」
「本人の視点から話が聞きたいな。裕は小島くんとの関係とも違う頼り方してるし、二人でセックスもせず好きな話でもしながら一緒に居れるんでしょ? 友愛に近いんじゃないかな。友達って今まで居たっけ?」
「いないです」
「あぁそう。興味深いね、彼」
「では、清水センセに連絡してみます」

 携帯をカバンの中から取り出し、着信履歴を開く。

「幸村さんは彼のことは?」
「僕を救える切り札って言ってました。清水センセは幸村さんのことを、僕と引き合わせてくれたから恩人だって言ってます。恋敵であり恩人である、って」
「面倒くさ! お互い愛憎あい半ばといった感じか」
「いや、僕が厄介過ぎるのでお互い未だに僕のことで電話でやり取りしてるくらいですから、共同戦線だと思いますよ」
「呉越同舟ってか? どういうことよ、そいつら!」

 寺岡さんの口調がだんだん呆れてきている。まぁ無理もない。

「清水センセ、今日病院から緊急で呼び出されてないと良いんですが」
「幸村さんは6時くらいには来れるって言ってるから、今からならまだ3時間弱は話せるかな?」

 携帯の呼び出し音が耳に響く。待ち構えてたように2コールで通話になった。
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