アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「渋谷で叔父さんと逢ったからだと思っていた。でもそれは綾だった」


「えっ? 私?」


「俺が又怖い夢を見るようになったきっかけだよ。ねぇ十年前に何か無かった? 例えば生死を分けるようなこと?」

私は思い出していた。
父の暴力を……


『殺さないで!!』
そう叫んだ日を。


私はきっと今顔面蒼白のはずだ。

体は震え、足がガタガタしている。


「ごめん。怖いことを思い出させてしまったようだね。でもね、きっと俺のその夢が……」

水野先生は私の体を抱き締めながら言った。


「俺はその夢の中で叫んでいるんだ。『姫を殺さないでくれー』って」

その言葉は、あの日聞いていた。

伯母が見付けてくれたビデオを見ていた時に叫んだ言葉だった。


(解っていたんだ水野先生は……。だから父の暴力を止めるためにあの夢を見たんだ。もしかしたら……私は水野先生からあの言葉を貰わなければ、死んでいたのかも知れないんだ。あの時。水野先生から貰った言葉を勇気を出して言えたから、今私は此処に居るんだ。此処で生きて居られるんだ!!)


私はこの不思議な巡り合わせに感謝しながら、水野先生を愛し続けることを目の前に見える大海原に誓った。


(そう……全ては運命だったのだ。十年前の暴力も……、渋谷での出逢いも……。父方の祖母の手術も……、平清盛の孫と言われた姫の故郷のダム工事も……。全ては……水野先生と私が結ばれる運命の元にあったのだ)




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