アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 『昨日お宅で見た猫なんだけど、迷子なんですってね。実は、公園の前の家の猫らしいの』


『その家の人に、家に居るって言っちゃたの?』

母の言葉を遮るようにおばさんが言った。

母は首を振った。


『言ってないよ。ただ居なくなっていないか聞いただけ』


『それが、言っちゃったってことよ。それであの人は何て?』


『一週間位前から居なくなって、一生懸命探しているって言ってた。親戚の子が大好きで、親離れしたらあげる約束だったらしいよ』
母はそう言った。




 『アンタのお陰であの猫返さなくてはいけなくなっちゃったじゃない!!』

午後、おばさんは家に怒鳴り込んで来た。


『何で、何で黙っていなかったの!!』

その剣幕は物凄くて、何時ものおばさんとは違っていた。

その後もおばさんは母を罵った。


『だから私は別に……』

母は本当に何も言ってなかった。

ただ、何処かで同じような猫を見た。
元の飼い主にはそう言っていたのだ。

そうしておいてからおばさんには、公園の前の家の飼い猫かも知れないと言っただけだった。

母は誰も傷付かないように最大限の配慮をしたのだった。




 私は怖くなった。

私と母はおばさんの子供から、迷子の猫だから飼い主を探してるって聞いたんだ。

それはみんな嘘っぱちだったのだ。

元の飼い主が解ったとしても知らばっくれるつもりだったんだ。


母がおばさんに何をしたと言うの?
どうして怒鳴り込まれなくちゃいけないの?


おばさん家の飼い猫が居なくなり、探しているとあの猫がいた。

迷い猫だと思って家に連れて帰り体を洗う。
その余りの可愛らしさに心を奪われ……


でも、その言い訳は通じない。

子猫を見つけた場所は、元の飼い主の裏庭だったのだ。

横に畑があり、親猫と遊ぶ為に出てきただけだったのだ。


『あんな汚い猫が、あんな可愛い猫を産めるなんて考えもしなかったわよ!!』

おばさんは最後にそう言って、玄関のドアを勢い良く閉めた。




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