アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 結局おばさんは、正義感に溢れた人では無かった。

ただの自己主張が強いだけの心の狭い人だった。
子供には尤もらしいことを言いながら、実際はズル賢い人だったのだ。


でもそのお陰で、父が引っ越しを決めてくれたんだ。
マイホームの夢が一歩前進することになったのだった。


父は偶々家に用事が出来て戻って来て、怒鳴り込みの現場に遭遇したのだった。


引っ越しする前日、あの公園に行ってみた。

公園に面しているその家の飼い猫が、子供に撫でられていた。


『あんな汚い猫』
おばさんの言葉がよみがえってきた。


『あの猫はね、ああやって子供と遊ぶでしょう。だから何時も体をキレイに洗われていたの。だから汚くなんかないのよ』

悲しそうに母が言った。


おばさんは、ただ自己満足しているだけだと思った。

今なら解る。
正義と言う仮面を付けただけだと。

でも私も母もその人に憧れていたのだった。


だから尚更、あの怒鳴り込みが影を落としていた。

其処からお友達の家を見てみた。


(こんなにこの家と近かったんだ……)


子猫を見つけたと言う裏の畑は保育園に通う道の脇にあり、通りを隔てた先にオバさんの家がある。
今バレなくても何時かは解る。
猫を一生家の中に閉じ込めておくことなんて出来ないのだから……


飼い猫を捨て猫だと思って連れ帰った。
そこまではいい。
確かにありえる話だ。

でもおばさんは、返すのがイヤで隠していたのだ。
だからそれを見つけた母に腹を立てたのだ。

どちらか理不尽なのかは小さな私にも解る。
だから余計に母が可哀想だったのだ。


母はその家を見ながら泣いていた。

きっとあの怒鳴り込みのことでも思い出したのだろう。


母も私もあの人の豹変ぶりで、大きく人生観が変わったのだ。

それほど大きな人だった。


アパート暮らしの中で、初めて母に出来た友達だったようだ。
だから尚更辛かったのだ。
だから尚更立ち直れなかったんだ。


お節介だと思ったのか?
それなら自分の子供に『あのね。ママが迷子の猫だって言ってたの。飼い主が現れたら返すんだって言ってたよ』なんて言わせなけりゃいいんだ。
私はそう思っていた。


私には未だにあの人が判らない。
掴みどころのない、まるで陽炎ような人だった。



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