ビター・スウィート



「大阪に出張?」

「……うん」



それから数時間後。午前の仕事中、隣の席の菜穂ちゃんは、今日もグロスをたっぷり塗った唇を尖らせキョトンと首を傾げた。



「いいじゃないですかぁ、大阪〜。観光場所沢山あるしぃ」

「じゃあ私と交代しよう!?大阪行けるよ!?内海さんとふたりきりだけど!!」

「うわぁ、あり得ないですぅ」



突然の内海さんからの『土日をよこせ』発言。それは大阪への出張の付き添いということで……つまり、あの悪魔と二日間をふたりきりで過ごすということだった。



『上司からの命令に嫌とは言わないよなぁ?あぁ?用事もないって言ってたわけだし、どうせ暇なんだからたまには土日に働くのも悪くないだろ。なに、安心しろ。休日出勤と出張で手当はちゃんとつくし、代休もきちんとやる』



ふん、と笑いながら言う内海さんの顔を思い出す度、“二日間ふたりきり”という気まずい想像に気が重くなる。



前ほど苦手ではない、彼のこと。

きついだけじゃなくて、ちゃんと優しさがあることも分かってるし、きちんと自分を見てくれていて、いざという時は手を差し伸べてくれる人だということも分かっている。……けど。



「ふたりきり、ですかぁ。怒られても、罵られても、気まずくてもふたりきり……」

「いやー!やめてー!!余計気が重くなるー!!!」



不安を煽るような言い方をする菜穂ちゃんに、私は声をあげ頭を抱えた。



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