ビター・スウィート
何であの時、せめて用事があるって言えなかったの私……!いや、おそらくあの男のことだから私に休日に用事がないことを分かって尋ねたのだろう。
だとしたら尚更、私はあの悪魔の思惑通りだったってわけだ。
そもそも、なんで私なんだろう。出張のお供になら、私より仲の良い広瀬先輩とかのほうが……。
「ちー、いる?」
「わっ!広瀬先輩!」
するとその時、フロアの入口にひょこっと姿を表したのは広瀬先輩。彼は私の姿を確認すると、笑顔で室内へと足を踏み入れた。
「聞いたよ、内海と大阪出張だって?」
「は、はい……そうなんです……」
早くも出張の話は広瀬先輩まで届いていたらしく、笑顔でその話題をふる彼に私はまたも肩を落とす。
「でもまたなんで大阪に?」
「今度コラボ商品作る『gigs』ってブランドが大阪に本社があるらしくて。その打ち合わせだそうです」
「『gigs』……あー、あれかぁ。そっか、ならちーが同行するのもわかるね」
「へ?」
その言葉の意味が分からず首をかしげる私に、広瀬先輩はうんうんと納得する。
「まぁ内海も怒ると怖いけど面倒見はいい方だから。不安だろうけど安心して行っておいで」
そんな不安を察するように、よしよしと頭をなでてくれる大きな手。単純な私は、それだけで大丈夫な気がしてしまう。
「は、はいっ。頑張ります!」
「うん、頑張って」
内海さんとふたりきりは、やっぱり少し気まずいし緊張もするけれど……とりあえず、頑張ってみよう。
目標は、まず怒らせない!