キスから始まる方程式
ザッザッザッ ――
まだ、真っ暗でシン……と寝静まっている街中に、私の足音が響き渡る。
凍てつくような真冬の冷気が行く手を阻むのだが、それさえも今の私には気にならなかった。
指輪、見つけなくちゃ……!
その一心で、速度を緩めることなく無我夢中で走り続ける。
とにかく今は、これ以上翔との繋がりを失いたくないという思いでいっぱいだった。
「はぁっ……はぁっ……。確か、この辺りだったはず……」
5分ほど走り続け、ようやく昨夕指輪を投げ捨てた土手へと到着した私は、おぼろげな記憶を頼りに草むらが広がる川辺へと下りて行った。
「うわっ! 坂で滑るし、暗いからすっごく怖いっ……」
想像以上に滑る足もとに細心の注意を払いながら、一歩一歩地面を踏みしめるようにして歩を進めて行く。
「ん……よいしょっ!……あとちょっと……」
何度もバランスを崩しながら、なんとか川辺へと辿り着いたのだが……
ガツッ
「キャッ!」
ドサッ
最後の最後、あと一歩というところで何かにつまずき、その場に転がってしまった。