キスから始まる方程式


「…………」

「…………」



桐生君……まだ怒ってるのかな……。



あれから5分ほど経つものの、ひたすら無言で歩き続ける私と桐生君。


チラチラと横目で桐生君の顔をうかがい見るのだが、薄暗くなってきたせいもありその表情からは何も読み取ることができない。


どうしたものかと途方に暮れていると、ふと私の中に別のことが浮かんできた。



そういえば私、桐生君とこんなふうに手を繋いで歩くのって初めてかも……。


なんかこーゆーのっていいな……。



幼い頃から憧れていた“彼氏と手を繋いで歩く”というシチュエーションを今自分が体験していることに気が付き、途端に嬉しくなる私。


「エヘヘ」と笑みをこぼす私に、ずっと黙ったままだった桐生君がポツリと呟いた。



「なんか七瀬、嬉しそう……」

「え? いやっ、その……」



なんとなく拗ねた表情で、桐生君が唇を尖らせる。


そんな桐生君の姿を見て、今までの私だったら絶対言わないであろう台詞が自分でも驚くほど素直に口をついて出てきた。



「桐生君と手繋いで歩けて……その……嬉しいなって……」

「……っ!」



恥ずかしさのあまり真っ赤になって俯く私。


すると桐生君が突然立ち止まり、繋いでいる手にギュッと力をこめ苦しそうに言葉を発した。
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