Pair key 〜繋がった2つの愛〜

*side 俊哉*

愛音は私の為すがままにされている。
首筋から始まって、中途半端に開け広げて逆三角形に現れている背中のあちこちに……私は牙を立てていた。
薄皮を千切るように噛み付いて、点々と血が滲むような、小さな傷を無数に作り続けている。

私は、自分が心のどこかで拒絶の反応を望んでいること知る。
そして悟った——私は彼女に突き放され、そしてそれに耐えられないであろう自分を自覚すると同時に見せつけて、愛音を脅かせることで溜飲を下げたかったのだ。
理不尽にも乱された感情を、ただぶつけたかっただけなのかもしれない。そして本音では、愛音に受け止めて欲しかったのかもしない——


だけど愛音は拒絶を示さなかった——

ただの一言も洩らさずに、僅かに身体を震わせるだけで何も……なにも言ってはこなかった。

それでいて、耐え忍んでいるわけでもないような、眠っているように穏やかな横顔で……本当に、不可思議な現象だと思った。
押さえつけられ、痛めつけられているにもかかわらず、なんの抵抗も見せぬなど、普段の愛音なら考えられない状況だ。

しかし愛音はこうしてここにいる。
逆らわず、嫌がる素振りも見せずにただひたすら受け止めている。

それは何故か――


“それが自然だからではないのか?”

先ほどの、自分の言葉が蘇った。
今のこの状況は、まさにそのまま、愛音の本質。ありのままの姿ではないのか?
そうすることが、愛音にとっての自然な行動ないし望みだったからではないのか?

(……私は、馬鹿か?)

私はコイツが嘘をつけないことを知っている。そんな奴が、そもそも人を騙せる訳が無いのだ。
いま目の前にあるこの状況こそが、答えの全てだということに気が付いた。

(コイツと居るせいで、馬鹿が移ったのかもしれんな……)

全くもって迷惑な話だ……と、私は声に出さずに呟きながら、いつの間にかその状況を楽しんでいた。

つくづく面白い女だと思った。
良くも悪くも、私にここまで影響を及ぼした人物が、これまでに何人いただろう――
その中でも「女」というのは初めてのことかもしれん。
だからこうも前代未聞の出来事が、私の身に起こるのだろうか……


私には愛音が必要で、側にいるのが当然で、触れたいから触れるのだ。
そして愛音もまた、私が必要で、側に在りたいと思っている。そうしたいと願うから私に触れるのであり、私の行為を受け入れているのだ。


そうすることが自然だから――


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