Crescent Moon



どうして、学生だなんて思ってしまったのだろう。


ちゃんと落ち着いて見てみれば、大人の男なのに。

私より若いことに変わりはないけれど、それでも高校生だと勘違いしてしまうなんて。


自分の目は当てにならないらしい。

思っていたよりも、私の目は節穴だったということだ。



帰りたい。

逃げ出したい。


しかし、強い力で引っ張られているせいで、抵抗したくてもそうすることさえ叶わない。



男なのだ。

やはり大人の男の力に、女の私が敵うはずがない。


どこまでも突き進んでいく悪魔に、私は思いきり叫んだ。



「ちょっと………放してよ!!」


私の言葉でハッと我に返ったらしい悪魔、もとい冴島が、ようやく私の手を解放する。


触れていた部分が熱く感じるのは、摩擦熱からか。

掴まれていた場所が、ヒリヒリと痛む。


振り返った冴島は、職員室にいた時とは違う表情で私を見下ろしていた。



この男、やっぱり二重人格だ。

さっきと、全然違う。


浮かべている表情は、職員室にいた時とは別人の様だった。



爽やかさなんて、もう微塵も残っていない。


そこにあるのは、無。

氷の様に冷たい、醒めた眼差しだけが、私に対して向けられている。



仮にも、私は同僚だ。

まして、これから同じクラスを受け持つ教師。


他の先生よりもずっと近くにいることになるのに、私と冴島の間に流れる空気は温かさの欠片もない。



初対面って、こんな風に迎えるものだったのだろうか。

多少、年は違えど、まだギリギリ同世代なのに。


無愛想な顔で、呟かれた一言。



「なあ、瀬川って、あんたのことだろ?」


その眼差しと同じくらいの冷たい声音で、尋ねてくる。


あの時と同じだ。

私をバカにしていた時と同じ。



何なの。

何なのよ。


環奈と話していた時は、言葉こそ短いものだったけれど、愛想だけは良かったのに。



この違いは、何よ?



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