Crescent Moon



(屋上で会った時と同じじゃない!)


あの時感じたのは、ぶつけようのない憤りだった。

誰に対して当てたらいいのか分からず、大人だからって無理に飲み込んだ怒り。


押さえ付けていた怒りが、沸々と蘇る。


問いかけを否定出来ない私は、目の前の悪魔並みに表情を消して、わざと無愛想にこう答えてやった。



「そうよ、私が瀬川だけど。」

「ふーん、やっぱり………な。」

「何よ!?まさか、あんたが教師だったなんて………。」


ポロリと、漏らしてしまった本音。



まさか、教師だったなんて。

まさか、同じクラスを受け持つことになるなんて。


偶然だけじゃ、説明しきれない。

そうかと言って、運命なんて言葉は間違っても使いたくない。


考えていたことは、あちらもそう変わらないらしい。

ふっと薄く笑って、負けずにこう言い返してきた。



「それは、こっちの台詞だから。まさか、あんたと同じクラスを受け持つことになるなんてな。」


その笑いが、勘に触る。

わざと、私をイライラさせている気がするのは何故だろうか。


あー、イラつく。

すごく、イライラする。


私って、こんなに怒りっぽかったのか。

自分では、穏やかな方だと思っていたのに。



大人だし、丸くなったのだと思っていた。

落ち着いた、大人の女だと思っていた。


どうやら、そんな自分は思い込みでしかなかったらしい。

この男の前だと、落ち着いた大人の女であるはずの自分が消えていく。




「これから、よろしくね。瀬川先生?」


授業前。

誰もいない廊下で、若い男と2人きり。


だけど、そこにロマンチックな雰囲気など漂ってはいない。



どこか殺伐とした、刺す様な空気がある。

1歩間違えば、何かが始まってしまいそうな予感がする。


わざとらしく、私のことを先生と呼んでみせる冴島。






こうして、新しい1年が始まった。


春は、出会いを連れてくる。

望みもしない、最悪な出会いまでも。



< 36 / 86 >

この作品をシェア

pagetop