Crescent Moon



風がほんのりと熱を持って、暖かく世界を包み込む。

優しい空気で、丸く丸く覆っていく感覚。



月日は流れ、新学期だからと慌ただしく過ごしているうちに、あっという間に明日からは大型連休というところまで来てしまった。

曜日の並びがいいらしく、今年は5連休になるとのこと。


連休前のこの時期は、毎年のことだけれど、生徒も浮き足立っている。

それは年が少し上であるだけで、同じ人間である教師とて同じこと。


連休前の最後のホームルームが終わり、職員室へと戻ってきた私。

私の後ろに付き従うのは、仮面を付けたあの男。


私達を待ち受けていたのは、華やかな会話に花を咲かせる先生方だった。




「先生、今日は1杯行きませんか?」


私の父親世代と同じくらいの、年配の先生方は、お酒の話に夢中になっている。


連休前の今日は、日夜仕事に追われる教師にとって、次の日のことを考えなくていい珍しい日。

二日酔いになるほど飲んだくれても構わない今日は、恰好の飲み日和だということなのだろう。



「もちろん、行きましょう!今日はそのつもりで、早々と予約までしておいたんですよ。」

「さすが、飯野先生!!気が利きますな。」


(誘われる前に予約までしてるなんて、最初から飲む気満々じゃない………。)


内心呆れつつ、心の中でそう突っ込む。

お酒の話で盛り上がる年配の先生方の横をすり抜けて、自席へと戻ろうと歩みを進めていく。


そうすると、聞こえてくるのは若い男性の声。



「藤崎先生、今日の夜は空いてますか?」


20代半ばの、体育科の教師をしている男が環奈を誘っているのが見えた。


こういう時の環奈は、無敵な存在だ。

いつにも増して、声がかかる。


若くて可愛い音楽科の先生と近付きたいと思っているのは、何もこの体育の先生だけではない。

年齢が少し上の30代の先生でも、環奈の周りに集まってしまうのだから。



また始まったのか。

それが、無関係の私の正直な感想だ。


ある種、見慣れた光景となってしまった状況に、苦笑いを浮かべるしかない。



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