Crescent Moon



自分が見ているのに、嘘なんてついても意味がない。

強がったって、この月には見抜かれてしまう。


私が、私を1番よく知っているのだから。

この月が私なら、虚栄心からついた嘘や強がりなんて、分かってしまうのだ。



きっと、誰にも理解してもらえない気持ちだって分かってくれる。

誰にも打ち明けられない心だって、この月は分かってくれている気がする。


寂しさや、虚しさ、そしてたった1人で暮らしてきたからこその孤独。

生涯をともにする人間がいることへの憧れや、それを素直に口に出せないプライド。


そういうくだらないものも、切ないくらいの気持ちも全て。



消え入りそうな声を遮って、冴島が言葉を紡ぐ。

その言葉は、悪魔と例える男にしては珍しいものだった。



「俺、三日月………嫌いじゃないけど。」


嫌いじゃない。

その言葉に、胸が弾ける。



「満月より、欠けてるくらいの方が綺麗に見えると思うけど?」


嫌いじゃないとそう答える冴島の表情からは、やっぱり感情らしい感情は読み取れない。


けれど、嘘をついていないことだけは分かる。

何となくだけれど、その言葉が冗談や偽りに塗れたものではないことだけは感じ取れる。


いつもならば嫌味だと思う言葉も、すんなりと受け入れられたのは、その表情を盗み見てしまったからだろう。



嫌いじゃない。

そう言われただけなのに、好きだと告げられているような気持ちに陥る。


三日月が嫌いじゃないと言っているだけなのに、まるで自分が告白でもされたみたいに思えてしまう。



酷い錯覚だなと、自分で自分を嘲笑った。

バカバカしいと、そう思った。


それなのに、ドクンドクンと心臓がリズムを刻んでいく。

リズムを刻むほど、私と冴島の距離が近付いていく。



元からそれほど離れていなかった距離が、確実に縮まる。

少しずつ、少しずつ、ドクンと跳ねながら縮まっていく。


冴島の視線が私を捉えて、離さない。

縛り付けられたかのように、体が動かない。


熱を帯びたその視線が、痛いくらいに私の心を鷲掴みにする。



誰に言われた訳でもないのに、私は静かに目を閉じた。



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