花の名は、ダリア
クララの言葉通り、工場はかなり人手不足のようだ。
イギリスは産業革命真っ盛り。
機械化による流れ作業が確立し、大量生産が可能となった。
食肉工場でも、吊るされて流れてきた牛や豚の決められた部位を切り取っていくのが、労働者の仕事だ。
ちょっと刃物が使えれば誰にだってできるから、賃金は安い。
疲れを知らないコンベアが相手だから、就業時間が長い上に休暇もほとんどない。
そりゃ、辞めるヤツも続出するわな。
だからクララに案内された事務所で、エラい人に会った途端に夜間勤務で即採用。
(俺みたいな、名実共にアヤシィ奴をアッサリ雇っちゃうとか…
いい加減なモンだな。)
支給された皮エプロンの紐を結びながら、ソージは唇を歪めて苦笑した。
コッチですよ、なんて言いながら、同じく皮エプロン姿のクララが手招く。
…
このコ…
「おまえも肉捌いてンの?」
艶やかな黒髪を片手で背に流して、ソージはクララに訊ねた。
「えぇ。
女性労働者もたくさんいるンですよ。」
「…
ふぅん…」