花の名は、ダリア
サムもまた、表情を消した。
『貴族』よりも、命令には逆らえない『仕えし者』のほうが掌握しやすいと考えたのは、事実だ。
『ノエル』に最も近い存在である『貴族』が、自分だけでいいと考えたのも、事実だ。
『ノエル』を慕う者たちが集まる国を作ってしまえば、彼女は孤独から救われると同時に、もうドコにも逃れられないとも…
「…
僕を卑怯だと責めるかい?
それでも…僕は『ノエル』を…」
「あー、安心しろ。
俺はおまえみたいに、『そんなのは愛じゃなーい』なんて言わねェから。
男の愛なんて、エゴやら執着やらとは切っても切れない、クソみてェなモンだもんな?」
掠れた声を絞り出したサムを慰めるように、ソージはコクコク頷いた。
この男は… ナンナンダ?
卑怯で身勝手な醜い愛すら許容できる、常軌を逸した底知れぬ狂気。
「でも、譲らねェよ?
そもそも、あの人は『ノエル』じゃない。
俺の唯一の花、ダリアだ。」
(この男は… 危険だ。)
再びフワリと微笑んだソージを見て、サムはリモートスイッチを握り直した。
殺そう。
『ノエル』のためにも。
交渉を有利に進める材料は、他にも用意してある。
優しくも狂った微笑みを消し去るために、サムが親指に力を込める…