花の名は、ダリア

「私はダリア。
神でも『ノエル』でもないわ。」


鍋を置いて立ち上がったダリアが、ゆっくりと近づいてくる。


「サムは伯爵じゃなくて、サムなの。
ソージは魔物じゃなくて、ソージなの。」


あどけなく微笑んでカオリの信じるモノをブチ壊しながら、近づいてくる。


「そして、私たちはヴァンパイアなのよ。」


ダリアはカオリと向かい合うように、胡座をかくソージの膝にちょこんと腰を下ろした。


「知らないコトは罪ではないケド、知ろうとしないコトは罪だわ。
ちゃんとアナタの目で見て。」


腕を伸ばして、背後にいるソージの頭を抱え寄せて。
目に眩しい白い喉を仰け反らせて。

前屈みになったソージの首に、薄く開いた色のない唇を‥‥‥



あぁ、キスなんかじゃない。

口の端から顎を伝い、零れ落ちる雫は赤い。

唇が離れると、お返しとばかりに、今度はソージがダリアの首筋に尖った牙を突き立てる。


「ね?
わかったでしょう?」


飢えた獣のように喉に喰らいつくソージの頭を愛しげに抱いたまま、世にも美しいヴァンパイアは笑った。

血に染まってゆく白いワンピースの胸元から目が離せなくなったカオリを見つめて、無邪気に笑った。

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