拝啓 芦田くん
芦田くん。

私が何を言いたいのか、もう、お分かりではないかと思います。勘のいいあなたの事ですから、きっと、分かってくれていると思います。
けれど、言わせて下さいね。お願いですから、最後まで、私の話を聞いていて下さい。(正確には読んで下さい、だけども)

さて、私達が付き合い始めて、あなたが大学を卒業し、就職を決めた時から、私達のこの奇妙な(?)同棲生活は始まりましたね。結婚を前提に、とか、二人の性格の一致、とかではなく、ただ生活費の節約という利点をお互いに掲げて、互いを尊重しながら、けれども時には過干渉に陥り喧嘩をしながら、こうして何とかやってきました。
私達の歯車は、時折噛み合わせが悪くなり、軋んだり、スピードを緩めたりしながら、けれども概ね、うまく回っていたと思います。それでもほんの少し、この回転が狂い始めたのは、あなたが突然に漫画家になると言って会社を辞めた時でしょうか。あの時は、私は自分の都合を押し付けながら、あなたを酷く傷付けたのだろうと、今ではすごく反省しています。

けれども、芦田くん。今更言葉にしなくても、きっと伝わっているはずだとは思うのだけれど、私はその、あなたの、奔放でいて妙に真面目な性格が大好きなのです。あなたがあなたでいるためには、そうでなければいけないのです。
あなたがこの畳の上で、酒に酔ってポロポロと涙を溢しながら、私に漫画家になりたいのだと告白したあの日。涙も鼻水も、ダラダラに流していたあの夜。あの時でさえも、私はあなたを愛おしいと思いました。そうして同時に、馬鹿だなあとも思ったのです。
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