君の一番になりたくて
「あ、ハル先輩・・・ってあれ?」
「あー、ユキも行きたいっていうから連れてきた。」
「よーっす、千恵ちゃん!」
俺の隣で軽く片手を上げながら、はにかんで挨拶をするユキ。
「こんにちわ、ユキ先輩!」
ニコッと笑うそれは、少し玲とは違う性格のせいか玲とは違った幼さがあった。
玲は大人っぽく笑うもんな、と頭の中で納得する俺。
「じゃあ、行きましょーか!」
歩き出す糸野の隣にサラッと移動するユキに、少し苦笑いしながら俺もその隣に並んだ。
頬を緩めるユキをみて青春だなぁ、と一人思う。


「あ、ここです。」
糸野が指差した先には、
少し大きめの一軒家。
チャイムを鳴らすと、
「はぁい」と弱々しい玲の声。
糸野が返事をすると、
少しして玄関が開いた。
「・・・あ・・・。」
パジャマ姿の玲は、俺とユキの方を見て、玄関のドアに身を隠した。
「な、なんで連れてきたの千恵ちゃん・・・。」
小さなその声と、慌てたような仕草に不意に笑ってしまった。
「うっ」と言ってもっとドアに隠れ、顔を俯かせた玲。
・・・可愛い。
顔が少し熱くなるのが分かった。


「今日はこれ届けに来ただけだから。」
糸野が手に持っている封筒を指差すと、
納得したように、ドアから離れ、
ふらついた足で立つ玲。
「わざわざ、ありがとう、千恵ちゃん。
先輩方も、ありがとうございます。」
ふにゃっと笑う彼女はやっぱりどこか危なかった。
「熱あるの?」
そう聞くと、「えへ」と悪戯っ子の顔で笑う。
「ったく」と言いながら玲の頭に手を置く。
首を傾げた玲が俺を上目づかいで不思議そうに見あげる。
恥ずかしくなった俺の右手は、玲の髪の毛をかき乱していた。
「もー、ハル照れちゃって。」
「そんなんじゃねぇし。」
「照れ隠しですか?」
「糸野頼むからやめろ。」
「ハル先輩、髪・・・。」
「あー、ごめんって。」
片手で玲の髪を整える。
終わると玲は満足そうに微笑んだ。
熱があるせいか、その艶めいた笑顔に照れる。


あまり長居しても悪いので、
それから少しして帰って、帰路に至る。
玄関を開けると、今年中学生になった妹が顔を出した。
「お兄ちゃん、おかえりー。」
「あぁ。」
「・・・なんかあった?」
「え?」
「なんか顔赤いよ。」
「走って帰ってきたからだ・・・。」
「あっそ。」
興味が失せたのかそのまま部屋に戻った妹。
玄関にある鏡をみると、
言われたように頬が赤くなっていた。
「・・・だっせ。」
顔を覆ってしゃがんでいた俺が、
妹に痛い目で見られたのは言うまでもない。
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