*とある神社の一人ぼっちな狐さんとの、ひと夏の恋物語*

「ん・・・。」

神社から、少女の声が漏れる。
その声に反応した俺は、
すばやく彼女のもとに戻った。
戻ると、彼女は窓に揺れる風鈴をただただぼうっと見ていた。
そんな彼女の様子に少し不安がよぎり、顔を覗き込む。


「ふわっ、?!」


大きく目を開き、
驚きを微塵も隠さない、
その品の無い驚き方に、
さっきまで自分の語っていた少女に対しての評価が一瞬にして裏返った。
美味しそう?、風鈴みたい?
・・・前言撤回だ。
俺は本心が漏れないように
その人間の小娘に口の端を引きつらせながら話しかけることにした。


「おい、顔を見てその反応は何だ小娘。
しかも恩人に向かって。失礼だ。」


そういうと、彼女は「え?」と首をかしげる。
説明をすると、彼女は少し怪訝な顔をしたが、
控えめに微笑みながら彼女は礼を言ってきた。
その微笑みと、寝ているときの、
彼女の幸せそうな顔が重なって、
顔に熱が戻ってくる。
フン、と顔をそむけると、
「ちょっ!?」と苛立つ彼女。

表情がコロコロ変わり、
寝ているときとは違う、
その少女っぷりに、少し戸惑う。


「・・・小娘、名は?」
気づけば口から出ていて、
彼女は恐る恐る自分の名を名乗った。

立花朱里。
無邪気で可愛げのある名前だと思った。
胸の深いところをつくような。


そこで、ふとある考えが過った。
朱里を見つけたのは、
朝日が少しのぼった頃で、
今は夕焼けが空を染めている。
ずっと眠りっぱなしだった彼女は、
何も食べていない。


「ちょっと待ってろ。」
そう言って俺は、その場を離れた。
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