ためらうよりも、早く。


さて、今の私はある人物に対して、心からの笑顔を向けている。



「やっぱりこちらのお料理はとても美味しいですね」

「それは光栄にございます。ありがとうございます、朝比奈様」

「今度は家族と参りますので、その時はまたお願いします」

「どうぞお待ち申し上げております」

今回も料理長が個室まで挨拶に来て下さったので、お世辞ゼロで会話をしていたのだ。


白いコック帽をつけた男性は、本場フランスの有名店で修行を積んだという。しわを刻んだ優しい面持ちで部屋をあとにした。


再び静寂が包む部屋の中、さっさと料理が冷めてしまわないうちにと姿勢を正す。


白いお皿の上でハの字に置いていたカトラリーをそれぞれ手にし、再びメインにナイフを入れたのだが。



「今度は家族とって、なに?」


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