ためらうよりも、早く。
あらかじめ続き部屋にある社長秘書の子には、暫く誰も取り次がないようにと頼んでおくことに。
私が連絡なしに訪問するのは珍しいことで、彼女はすぐさま社長室に連絡しようとしたがそれも止めた。
呼ばれない限り赴くことはないそこは、重役室より一階高いビルの最上階にある。
シックかつ洗練された部屋の扉を数回ノックし、返事が返ってきたところで戸を開いた。
入室後にドアを閉めると、「急を要する話があります」と歩みを進めて行く。
プレジデント・デスクで経営管理部門の書類をチェック中らしい父は、娘の奇襲攻撃には動じず眉間に皺を寄せたのみ。
机を挟んだ向かい側に背筋を伸ばして立つと、こちらを見つめるその表情は険しいものだった。
「……私に、お見合い相手を紹介して下さい。
但し、すぐに結婚を了承してくれる男限定で」
耳に入れたい話と言われて、実は多少なりとも身構えていた模様。
一企業の役員ではなく、娘の顔で深々と頭を下げて告げられた言葉に目を丸くさせているらしい。
「おい柚希、どうした?……正気か?」