ためらうよりも、早く。


夜道の一人歩きは危ないからタクシーを使うように言えば、彼氏の家が近いので迎えに来てくれるとか。


「いえ、とんでもありません。
柚希ディレクター、どうぞ根を詰められませんように」


彼女らしい含みのある言い方には気づかないフリで、「ありがとう」と笑顔を見せておく。


明日は直接空港で落ち合うため、最終確認を終えると疲れも見せずに帰宅して行った。


パタン、と専務室の扉が閉まったところで、オフィス・チェアに背を預けて真っ白な天井を仰ぐ。


時刻は23時をゆうに過ぎている現在。いつもながら、夜の静寂は不気味さを孕んでいる。


視線を戻すと、デスク上には散らかった様々な書類。傍らのノートPC画面に映るのは、諸外国から届いたメールに対する返信内容。


座りっぱなしで肩は凝ったものの、予定以上に処理し終えられたと安堵して、ホッと息を吐く。


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