ためらうよりも、早く。


結果、修復出来ないほど破れてしまったモノと直面し、もう黙って逃げる他なくなった。


手始めに、二度と連絡しないと拒否設定にした。無視に無視を重ねれば、多忙な祐史はすぐに風船のように別の女に向かうだろうと。


即断即決で猪突猛進という自らの性格上、極端なことを仕出かしたと今さら反省しても遅い。


思惑は外れて、風船男を焚き付けさせた結果、こんなところに不時着させてしまったらしい。


だから、「アホらしい」と返すのが精一杯なんて、終止笑顔の祐史に悟られるわけにはいかなかった。


昔から嫌というほど知らされているから。……かつての苦い思い出に苛まれているのは私だけとも。


ただ、彼の戯れ言をスルー出来なくなった今、たまに昔馴染みといえない不安定さが堪らなくなる。



「本気なのに」と言う彼の表情に、知らない振りをするクセがついたのは何時からだろう……?


すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえたので、握られていた手を勢い任せに解いた。


間もなく制服を着た若い女性社員が一礼ののち入室し、お茶をテーブルへ2つ置いて静かにその場を去った。


しかし、この男の“ありがとう”と言った時の微笑によって、ここにも被害者が一名増えた模様。


可愛らしい社員の男を見つめる目が、一転してぽーっと蕩けるような眼差しに変わっていたから。……部外者的には、まあご愁傷様としか言えない。


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