ためらうよりも、早く。


さっさとテーブルに誘導すると、祐史は先ほど座っていた1人掛けの革張りソファに座った。


そして私は彼と対角線上にある、同じく1人掛けのソファへと静かに身を沈めることにした。



「——ねえ、妬けた?」

「アホか……もう冗談はやめて。——ご用件は何でしょう?」


ひとつ溜め息を落とすと、固く表情を引き締めて斜め向かいの笑みを浮かべる男に真意を問う。


ビジネスの場だけど良いわ、と勝手に足を組んだのも、いま対峙するのが旧知ゆえに構わない。



「なあ、ホントに仕事じゃないって。……あ、“私的な仕事”か?」

「で、なに?早くしてくれる?」


「ああ」と、少しでも早く話を終えたい私を一蹴するように、優雅な微笑がまた返ってきた。


くすくすと笑う姿も綺麗に映るのは、大手商社の息子という風船男の育ちの良さゆえだろう。


斜め向かいに席を取ったのは、拭えずにいる警戒心を悟られたくなかったから……。



「――結婚することにした」


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