ためらうよりも、早く。


ただ一言、はっきり聞こえたその声音で、これは本当だと分かってしまうから、身じろぎもせず彼の顔を見続ける外ない。


——これだから昔馴染みプラス・アルファの関係なんて、デメリットだらけで報われない。



「ねえ、なんか言ってくれないの?」

「そう、としか言えないけど。何を言わせたいワケ?」

「あーあ。柚ちゃんはやっぱりクールだね」

「アンタに限って容赦ないだけよ」


やっぱりって何なの?——膝に置いた手が小刻みに震えている中で、よく気づかれずに言い終えたと思う。


思わぬ地で、思わぬ時に、思いもよらぬ報告を受けたせい。そんな強がりで耐えぬき、本心の見えない男に不敵に笑ってみせた。


安っぽくて、激甘でキザな台詞は、私のモノじゃない現実。……別の女に向けられていたのかと思うと心が急に痛み始めた。


俗にいう、気安い仲になんてならない方が良い。近すぎる距離が当たり前になって、深みに塡まった瞬間に気づいてしまう。


——『やっぱり幼馴染みの方が良かったな』と。



だから、時おり思い出すこのフレーズが、未だに私から消えないなんて絶対に口にしない。


いつになったら私は、祐史に対して“以前のように”接することが出来るのかと襲う恐怖心。


これまで積み重ねてきたはずの経験値が、ひどく安っぽくて滑稽なものに感じながら……。


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