ためらうよりも、早く。
絢と別れてからの私は、ホテルを逃げるようにあとにし、そのままタクシーで自宅へと帰って来た。
いつもより早い……、いや朝帰りもせず健全な時間帯に帰宅するのは珍しいことだが。
それ以上に、玄関でルブタンの靴を脱ぎながら号泣している姿に驚いたのだろう。
出迎えた母が唖然とする中、既に帰っていた妹は、私を支えながら2階にある部屋まで連れて行ってくれた。
そしてソファに座りもせず、毛足の長い絨毯の上で泣きじゃくっていたという、この年齢にしてはなんともお粗末な顛末だ。
時間は私の咽び声とともに刻々と過ぎていき、日付も変わった現在。それまでずっと、のんは黙って傍を離れようとはしなかった。
「ひとりの身体じゃないんだから」と泣きながら言っても、彼女は頑として動かず。
そのため「ひとりにして!」と今度は強めに言ったのだが、うんうんと頷くばかり。
こういうところは父そっくり。基本的には天真爛漫だが、言い出したら人の話を聞かない。