Revive


僕は次の日、屋上で溜め息ばかりついていた。
それを見た夢野が読んでいた本を閉じた。

「何かあったのか?」

夢野にそう言われ僕は更に大きな溜め息をつく。

「・・・」

すると夢野は突然僕の肩に手を置いた。

「ごめん」

夢野のその言葉に僕は驚いた。

「全部・・・俺のせいだ・・・」

夢野はそう言うと下を向く。

「な・何言ってるんだよ?夢野。どうした?」

僕は笑った。今日の夢野はいつもと違ってみえた。

「今日の夢野、なんか元気ないぞ?どうした?」

僕がそう言うと夢野は僕を見る。

「それはお前もだろ?」

夢野にそう言われ僕はハッとした。

「元気がないのは夢野のせいじゃない・・・
昨日ちょっと色々あってね」

僕は秋山の恋ノートを思い出しながら言った。


「僕は、本当に何も分かってなかったんだなって思ってね・・・」

太陽の光が暖かく、気持ちの良い風が吹く。

僕はこうして夢野と屋上で過ごすこの時間が好きだった。


しばらく、雲がゆっくりと流れていくのを眺めていた。


「なぁ、空野。
俺がいつも読んでるこの小説の主人公は、
お前と同じ転校生だ」

夢野は僕に本を見せながら言った。
僕は前からその本が気になっていた。


「どこにでもいる普通の学生で、
この小説では中学生って設定だけど・・・。
簡単に話すと、ある時、この主人公の携帯に
知らないアドレスからメールが届くんだ。
件名も本文も、何も書かれていなくて、
そのアドレスにはReviveとだけ書かれていた。
主人公は何度も送られてくるそのメールを
リバイブメールと名付けて、
そのメールの謎について考え始める。
主人公はまずReviveの意味を調べた。
Reviveは日本語訳すると生き返るとか再生という意味にもなる。
しばらくして、主人公はそのメールに返信をすることにした」

夢野はそこまで言うと僕が真剣に聞いているのを見て笑う。

「返信した内容は・・・なんだと思う?」

夢野は空を見上げた。

「その主人公は、転校先で出会った友達の
母親の名前を本文に打ち込んで送信したんだ」

空を見上げる夢野の横顔は美しかった。

「どうして・・?」

僕は聞いた。

「主人公はその友達が、母親を亡くしていることを知る。
だからその母親の名前を書いた。
Revive・・・。
主人公は直感で動いた」

僕はそれからどうなったのか予想した。
きっとその母親が生き返ったんだ。
とても有り得ない話だが。

夢野はしばらく黙った。

「そのリバイブメールによって
死んだはずの母親は姿を現し、
もう1度「会話」をすることができた。
そして再び姿を消し、2度と現れることはなかった」


夢野は僕を見た。

「死んだ者は2度と生き返らない。
そんなことは分かってる。
でも、物語には夢がある方が良い。
有り得ないくらいがちょうど良いんだ。
それよりも俺が1番好きな部分は、
この主人公が1番最初に友の母親の名を書いたこと
この主人公は、最初から最後まで
いつも友のことを考え、行動し、助けようと必死だった。
転校生の行動が友を変え、そしてクラスを、学校を変えていった。
みんなが抱えている悩みを次々に解決させていくんだ。
他にも色々とあるが、簡単に言うとそんな話だ」


夢野はそう言うと僕を見て微笑んだ。

僕は夢野の左目しか見たことがないが、

本当に優しい瞳をしている。心が温かくなるような感じだ。

夢野は元々、人に避けられるような人間ではない。

みんなちゃんと夢野の目を見たことがないんだ。

眼帯ばかりに気を取られ、大切なものを見失っているんだ。


僕は夢野の話を聞き、夢野はきっと母親に会いたいのだと思った。
今1番会いたい人は・・・きっとそうに違いない。




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