恋のカルテ
桜の木の下まで来た。すると昨日まで五分咲きと言われていたはずのつぼみが、その美しい色を誇らんばかりに咲き乱れていた。
そしてさっきより強い風がその木を揺らすと、はらはらと花びらが舞い落ちる。
とても綺麗だ。
思わず魅入ってしまった私に、トキさんは声をかけた。
「加恋ちゃん」
振り向きざまに向けられたカメラのレンズ。
カシャリとシャッターを切ったトキさんは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ちょっと、トキさん!」
「最高の一枚が撮れたよ、だから怒らないでよ。加恋ちゃん、もう一枚」
「もう。……一枚だけですよ」
「thank you.karen……smile、smile」
そう言ってファインダーを覗く眼差しはとても真剣で、現役時代のトキさんの姿が目に浮かぶようだった。