恋のカルテ

佐伯先生は笑っていた。もてるなら女にもてたいと。

「ほんと厄介なオヤジ」

そんなことを言いながらも、岡崎さんに対しては、とても優しく丁寧に対応していた。

どちらが本当の佐伯先生か分からなくなるほどに。

結局先生は一時間もの間、岡崎さんの話を聞いてやり、手術室まで見送ってあげた。

「へえ、佐伯先生のICに同席してたんだ。随分と気に入られたもんだね」

ニヤリと笑って森くんが言う。

「やめてよ、森くん。気に入られてるだなんて、あり得ない。ICに同席させてもらったのは、もともと私に関係ある患者だったからだよ」

「またまたー、そんなの口実だよ。紅一点の研修医。狙われて当然だよ」

「なにそれ、森くんの考えにはついて行けない」

「俺の考えじゃないよ。世の中の男たちの思考。今夜あたりどう? なんて誘われたりしなかった?」

「惜しい、森くん。誘われたのは今夜ではなく今朝でした」

……なんて明るく暴露できるわけがない。


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