恋のカルテ

「うるさい、放せ」

おそらく軽く振り払うつもりだったんだろう。でも、圭人の肘が私の顔に当った。

ガツンという音と衝撃の後、私は冷たいフローリングの床に勢いよく倒れ込む。

その瞬間は何が起こったのか分からなかった。

体のあちこちに痛みを感じたけれど、どこがどう痛いのかがはっきりとしない。

閉じていた目をうっすらと開けてみると、ちかちかと白い光が散っている。

おそらく頭も打ったのだろう。

でもこれは、ただの事故。

このままでいたら、圭人に心配をかけてしまう。

そう考えた私は手をついてゆっくりと起き上がり、安心させるように笑った。

「……圭人」

抱き起してくれるのかと期待した。でも圭人は手を伸ばしてはくれない。

それどころか険しい表情のまま、こう吐き捨てる様に言った。

「……出ていってくれ」


< 75 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop