委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
 少女の肌は抜けるように白く、黒目がちの目は綺麗に澄んでおり、その目を上目遣いにして、無駄に背の高い僕の顔を真っ直ぐに捕らえていた。僕はまるで、魂までもがその瞳に捕らえられているような気がした。


 桜色した少女の柔らかそうな唇は少し開いており、今にも何かを言い出しそうに見えたが、少女は無言だった。そう言う僕も、ただただ少女に見惚れるばかりだったのだが。


 こんなにも魅力的な少女に、僕は今まで会った事があるだろうか……

いや、ないと思う。しかし……

 不思議な事に、僕はその少女に、何と言うか、親しみ、あるいは懐かしさみたいなものを感じていた。間違いなく初対面だというのに。

そして、すぐにでも彼女をこの手で抱き締めたい衝動に駆られた。もちろん、そんな事をしてはいけないし、そもそも両手が塞がっているから無理なのだが。


 いったいどのくらいの時間、僕らはそうしていただろうか。数分にも思えるし、ほんの数秒だったのかもしれない。


 ふと少女の瞳が揺れたと思ったら、その白い頬を透明な雫が一筋流れ落ちた。


涙?

 いや、そんなはずない。きっと雨の雫だろう。現に少女の漆黒の髪はしっとりと濡れているのだから。

だが、雫は少女の目から溢れたように僕には見えた。であれば、やはり涙という事になる。でも、どうして涙なんか……


 僕がそんな事を考えていたら、少女はクルッと僕に背中を向け、あっという間に走り去って行ってしまった。

 やっぱり鈍臭い僕は、土砂降りの雨の中を走り去る少女の後ろ姿を、ただ呆然と見送る事しか出来なかった。

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